
✅ この記事では、Appleが新たに発表した「最⾼200万ドル(約3億円)」のバグ報奨⾦制度について、変更点と狙い、そして日本の研究者にとっての意味をわかりやすく整理します。
- Appleの新バグバウンティ制度:焦点は「実戦型攻撃チェーン」
- 報告後すぐに評価される「ターゲットフラグ」制度
- ベータ版・Lockdown Modeにも報奨枠を拡⼤
- Appleの狙い:攻撃者よりも速く、現実的な防御を構築する
- 日本の研究者にとっての意味
- 次に注目すべきは「報奨文化の定着」
どうも、となりです。
Appleが、セキュリティ研究者向けの「バグバウンティ(脆弱性報告報奨⾦)」プログラムを⼤幅に刷新しました。 これまでの一般カテゴリの最⾼報酬100万ドルを倍増し、スパイウェア級の攻撃チェーン(複数の脆弱性を組み合わせた攻撃)を再現できる報告には最⾼200万ドルを⽀払うとしています。Lockdown Mode(ロックダウンモード)やベータ報告向けのボーナスを含めれば、1件の報告で合計500万ドルを超える可能性もあるとされています。
報奨⾦額としては、Appleいわく「業界最⼤」。 Target Flags(ターゲットフラグ)や支払いの短縮化など、運用面でも大きな改良が入っており、研究者にとっては従来以上に実務的で参加しやすい仕組みになっています。
Appleの新バグバウンティ制度:焦点は「実戦型攻撃チェーン」
今回の刷新のポイントは、単⼀の脆弱性よりも「実際に攻撃に使われうる⼀連のエクスプロイトチェーン」に重きを置いたこと。 つまり、「1個のバグ」よりも「複数をつなげて攻撃できる構成」を評価する流れです。
背景には、NSO Groupの「Pegasus」などに代表される、国家レベルのスパイウェアによる標的型攻撃の⾼度化があります。 Appleはこれを「傭兵スパイウェア(mercenary spyware)」と表現し、現実の攻撃に即した報奨⾦体系に変えたというわけです。
報奨上限は以下のように改定されています。
- スパイウェア級の完全な攻撃チェーン:最⾼200万ドル
- 1クリックWebKitサンドボックス脱出:最⾼30万ドル
- 無線通信(Bluetooth、Wi-Fi など)経由の近接攻撃:最⾼100万ドル
- macOS Gatekeeperの完全バイパス:10万ドル
これらはすべて、従来の報奨⾦よりも⼤幅に引き上げられています。 逆に、現実的でない脆弱性カテゴリー(再現困難な⾮攻撃性バグ)については報奨額を下げるとのことです。
報告後すぐに評価される「ターゲットフラグ」制度
もうひとつの⽬⽟が、「Target Flags(ターゲットフラグ)」 という新仕組み。 キャプチャー・ザ・フラッグ(CTF)ゲームから着想を得たもので、研究者が脆弱性を悪⽤して特定の権限(コード実⾏や任意書き込みなど)を取得したことを“旗”として証明するシステムです。
Appleはその旗を検証後、報告の妥当性を確認次第すぐに通知・⽀払いを⾏うとしています。 従来はAppleが修正版をリリースしてから⽀払いが⾏われていたため、⻑期間待たされることもありました。 これにより、報告から報奨までの待機期間が⼤幅に短縮されると期待されます。
ベータ版・Lockdown Modeにも報奨枠を拡⼤
Appleは今回、対象範囲も広げました。 iOSやmacOSのベータ版で発⾒された脆弱性や、Lockdown Modeを突破する脆弱性にも特別ボーナスが設定されています。 この2つはAppleが特に重視している領域で、Lockdown Modeは「スパイウェアからの最後の砦」と位置づけられています。
つまり、研究者は正式リリース前に発⾒した問題でも報奨対象になり、Lockdown Modeの防御を破った報告ならより⾼額が狙える、というわけです。
この改定は2025年11月から適用開始。詳細なカテゴリ・報酬表とTarget Flags手順は、適用時に公式サイトで公開されます。
また、広範なiCloud不正アクセスには最⾼100万ドルの枠も新設されています。
Appleの狙い:攻撃者よりも速く、現実的な防御を構築する
Appleはこの制度変更について、「現実の攻撃と同じ構造の報告を重視することで、より実践的な防御を築ける」と説明しています。 裏を返せば、国家級攻撃への防御を民間レベルで再現するための投資とも言えます。
特に注目すべきは、Lockdown Mode突破にボーナスを設けた点。 これは、単なるPR的施策ではなく、「政府系マルウェア」への継続的対抗戦略の一部です。 Appleは2021年以降、各国のスパイウェア事業者を相手取って法的措置を取っており、制度としての“盾”を整えた形になります。
日本の研究者にとっての意味
日本国内でも、セキュリティ研究コミュニティは年々拡⼤しており、CTFやバグハンティングイベントのレベルも上がっています。 今回の変更で、英語での報告さえできれば世界中の研究者が参加できるようになります。 ただし、ベータ版ソフトウェアや「Target Flags」など一部の報奨枠を利用するには、Appleの招待制プログラム「Security Research Device Program(SRDP)」への登録が必要です。
Appleはこれまでに800名以上の研究者へ総額3500万ドル超を⽀払ったと公表。 ⽇本の研究者もこの制度を活⽤できる可能性があり、特にmacOSやWebKitに強い開発者にとっては⼤きなチャンスです。
次に注目すべきは「報奨文化の定着」
今回のAppleの動きは、単なる報奨⾦アップではなく、セキュリティ研究を社会的に認める⽂化づくりへの投資でもあります。 GoogleやMicrosoftも同様のプログラムを持っていますが、Appleのように「即時⽀払い」「スパイウェア級チェーン重視」といった実践型制度はまだ珍しい。 研究者が攻撃者よりも速く動ける仕組みを、Appleが本気で整備し始めたというわけです。
今後は他社もこの流れに追随する可能性があります。 セキュリティは“防御側が先に動ける時代”へ。 Appleの200万ドル制度は、その起点になりそうです。
ではまた!