
✅この記事では、発売前にレビューされたM5版iPad Proが、後からAppleによって遠隔ロックされ「文鎮化」したという一件を整理します。リーク動画のその後に何が起きたのか、そしてAppleとインフルエンサーの関係について、少し落ち着いて眺めてみる回です。
- M5 iPad Proが「遠隔ロック」されるまでの流れ
- ベンチマーク流出がAppleに与えたダメージ
- そもそも、どうやってロシアにM5 iPad Proが?
- Appleが遠隔ロックで示したメッセージ
- ひとこと:文鎮化したiPadが見せる、Appleとインフルエンサーの距離
- まとめ:M5 iPad Pro遠隔ロックが教えてくれること
どうも、となりです。
秋に入ってから、M5 iPad Pro関連の情報はかなり早い段階から出ていましたよね。なかでもインパクトが大きかったのが、ロシアの人気YouTuberが発売の半月以上前に実機を入手して開封&ベンチマーク動画を公開した件でした。その「代償」として、いまAppleがどう動いたのかが見えてきたのが今回のニュースです。
この記事では、IT之家やWccftechのレポートをもとに、出来事の経緯・Apple側の狙い・ユーザーとしてどう受け止めるか、という3つの軸で整理していきます。
M5 iPad Proが「遠隔ロック」されるまでの流れ
今回の主役は、登録者1,000万人超のロシア人YouTuber、Wylsacom氏です。IT之家によると、彼は2025年10月1日時点で、まだ発表前だったM5版iPad Proを入手し、YouTubeで開封とベンチマーク動画を公開しました。Appleの正式発表よりおよそ半月以上早いタイミングだったとされています。
そして今回、海外メディアWccftechが伝えた続報が、「Appleがこの個体に遠隔ロックをかけた」という話です。
- 対象:ロシアのYouTuberが入手したM5版iPad Proの実機
- Appleの対応:遠隔でアクティベーションロックを実施
- 現在の状態:初期設定画面(アクティベーション画面)から進めない
- できること:充電など、ごく一部の基本動作のみ
- 実質的な結果:動画内で「高価なまな板」と形容されるレベルの“文鎮化”
つまり、電源は入るものの、通常のiPadとしてはほぼ使えない状態になってしまった、ということですね。Apple側がどのタイミングでロックをかけたのかは明かされていませんが、「動画公開後しばらく経ってから動いた」と見られています。
ベンチマーク流出がAppleに与えたダメージ
この件でAppleがここまで強めの対応に出た背景として、Wccftechは「ベンチマーク流出による売上への影響」を挙げています。
当時の動画では、M5版iPad ProのGPU性能がM4世代から約30%向上しているというベンチマーク結果が紹介されました。もちろん数字だけ見ればしっかり強化されていますが、一部のユーザーからすると「30%なら今年は見送りでもいいかな」と判断する材料にもなってしまいます。
実際、Wccftechは次のような見方をしています。
- M5版が「思ったほどのジャンプアップではない」と受け止めた人が一定数いた。
- その結果、「今年はM4 iPad Proでも十分」と考えて購入を先送り、もしくは値下がりしたM4モデルに流れたユーザーが出た可能性がある。
- こうした「発売前の期待値ダウン」が、Appleにとって潜在的な機会損失になった可能性がある。
当時のベンチマーク結果やM4との違いは、以前まとめたM5 iPad Proリークとベンチマークの整理記事でも詳しく整理しましたが、あのタイミングで「実機・実測値」が出てしまったインパクトはやはり小さくなかったはずです。
Appleとしては、事前リークの存在自体はある程度織り込んでいるとはいえ、発売前の重要なタイミングで公式シナリオとは異なる印象が広がってしまったことに、かなりシビアに反応したのではないか──という見方もできます。
そもそも、どうやってロシアにM5 iPad Proが?
もうひとつ気になるのが、「Appleは数年前からロシアでの販売を停止しているのに、どうやって最新のM5 iPad Proが流れてきたのか」という点です。
IT之家は、米メディアCult of Macの報道を引きつつ、次のような可能性を指摘しています。
- 今回の個体はベトナム工場で生産されたものと見られている。
- 製造を担当するのはおなじみの富士康(Foxconn)などのサプライヤ。
- 量産が始まってから正式発表までの「数週間〜1か月」ほどのタイムラグで、内部から未発表デバイスが外に持ち出される余地が生まれる。
- 登録者1,000万超という規模のチャンネルを持つインフルエンサーには、こうした“グレーなルート”から声がかかってもおかしくない。
要するに、量産ラインから少数の端末が抜け出し、それが高額で転売されるという、昔ながらの「工場リーク」の現代版が起きたと考えられます。アメリカなどの大手テック系YouTuberがこうした案件を避けがちな一方で、ロシアのようにAppleの公式チャネルから距離がある地域では、こうしたグレーゾーンに足を踏み入れやすい土壌もあるのかもしれません。
Appleが遠隔ロックで示したメッセージ
今回の一件をどう受け取るかは立場によって変わりますが、個人的にはAppleが「ここまでは見逃さない」という線引きを、静かに示したように感じました。いくつかポイントを整理してみます。
1. 単なる「見せしめ」以上に、サプライチェーンへの牽制
まず1つ目は、今回のロックはYouTuber本人だけでなく、工場側・流通側への強い牽制にもなっているという点です。
未発表端末が量産ラインから外部に漏れるとき、必ずどこかに「持ち出しに関わった人」が存在します。Appleがその個体を特定し、後からでも遠隔ロックできたという事実は、「どのルートで外に出たかも含めて、Appleはかなり細かく追跡できる」というメッセージにもなっているはずです。
この構図は、いわば「端末そのものが証拠物件になっている」ようなものです。ロックされたM5 iPad Proが手元に残ることで、関係者の間ではかなり強い抑止力として働きそうですよね。
2. リーク動画は「一次情報」のようでいて、実はシナリオ外
2つ目は、リーク動画の扱い方についてです。発売前の実機レビューは、どうしても「一次情報に近いもの」として受け止められがちです。ベンチマークの数字も実際に測った結果なので、ある意味で事実には違いありません。
ただし、Appleが用意している公式の情報公開シナリオから見ると、これは完全に想定外のタイミング・文脈で出てきた情報です。性能が30%伸びているかどうかよりも、「Apple自身がどう説明したかったか」というストーリーが崩れてしまったことの方が、長期的な影響は大きいかもしれません。
今回の遠隔ロックは、「そこまで踏み込んだリークをした場合、その端末は将来的に使えなくなるかもしれない」という、非常に分かりやすいリスクを可視化した動きとも言えます。
3. 視聴者としては、“楽しむ距離感”をどう取るか
3つ目は、私たち視聴者側のスタンスです。正直なところ、発売前の実機レビューやベンチマーク動画は、ガジェット好きにとっては最高のエンタメですよね。スペックの伸び方やデザインの変化を先に知れるワクワク感は、公式イベントとはまた別の楽しさがあります。
一方で、今回のように公式情報より先に「微妙にネガティブな印象」が広がってしまうと、結果的に製品の評価や販売にも影響が出てきます。リークの恩恵を受けているのは視聴者だけでなく、インフルエンサー本人の広告収益・知名度アップでもありますが、その裏でAppleやサプライチェーンが負うリスクも決して小さくありません。
「事前リークはゼロがいい」とまでは思いませんが、どこまで踏み込めば誰かのリスクを踏みつけてしまうのかという線引きは、これから少しずつシビアになっていきそうです。
ひとこと:文鎮化したiPadが見せる、Appleとインフルエンサーの距離
高価なM5 iPad Proが、いまやほぼ「充電はできるけれど、アクティベーション画面から先へ進めない板」になってしまったという話は、どうしても象徴的に映ります。これは単に「Appleが怒ったから壊した」という話ではなく、未発表製品を使ったコンテンツビジネスと、メーカー側のコントロール欲求が真っ向からぶつかった結果にも見えるからです。
一方で、こうしたグレーなルートを使わなくても、正式なレビュー機の貸し出しや発売直後の詳しい検証であれば、ユーザーにとっての価値は十分に高いはずです。今回の遠隔ロックは、「そこを越えてしまうと、さすがに線を引きますよ」というAppleからのサインにも思えました。
リーク文化そのものはすぐには消えないでしょうし、私たちもつい追ってしまいますよね。ただ、その裏側にある力学を知っておくと、「この動画はどんな立場から出てきたのか」「誰にとって得なのか」が少し見えやすくなるのかな、という気もしています。
まとめ:M5 iPad Pro遠隔ロックが教えてくれること
- ロシアの人気YouTuberが、Appleの正式発表より半月以上前にM5版iPad Proを入手・開封・ベンチマーク公開していたことが発端です。
- その後、Appleがこの個体に遠隔でアクティベーションロックをかけ、現在は充電以外ほぼ何もできない“文鎮状態”になっていると報じられました。
- 動画で示された「M4比GPU性能30%向上」という数字は、ポジティブな情報でありつつ、結果的に「今年はスキップでもいいかも」と考える人を増やした可能性も指摘されています。
- 端末はベトナム工場からの“グレーなルート”で流れたと見られており、Appleはサプライチェーン全体に強めの牽制をかけた形にもなっています。
- 視聴者としては、リーク動画を楽しみつつも、「どこまでが健全な先行情報で、どこからが誰かのリスクに乗っかったコンテンツなのか」を意識しておくと、ニュースとの付き合い方も少し変わってきそうです。
高性能なM5 iPad Proが「高価なまな板」になってしまったというエピソードは、ちょっと笑えて、でもどこかゾッとする話でもあります。あなたは、この遠隔ロックの一件を、Appleのやりすぎだと思いますか? それとも、これくらいの線引きはあって当然だと感じますか?
ではまた!
Source: IT之家, Wccftech, Cult of Mac
