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なぜiPhoneのカメラは出っ張るのか ― 出っ張りの正体と“フラット化”の可能性

なぜiPhoneのカメラは出っ張るのか ― 出っ張りの正体と“フラット化”の可能性

✅ この記事では、iPhoneのカメラがなぜ「出っ張る」のかを、センサーやレンズの物理的な制約から、デザイン哲学・他社比較・将来技術まで幅広く解説します。歴史的な流れと専門的な観点を盛り込みつつ、スマホカメラの現在と未来を整理します。

 

どうも、となりです。

机に置くとガタガタする、ケースを付けないと不安定――iPhoneを使っていると必ず気になる「カメラの出っ張り」。単なるデザイン上の好みの問題かと思いきや、実は光学と半導体技術の最前線に直結する必然の結果です。本記事では、その理由を深堀りしながら「どうすればフラットに近づけるのか」まで考えてみます。

1. 出っ張りの根本原因 ― センサーとレンズの厚み

スマホカメラは「イメージセンサー」と「レンズ群」で構成されます。センサーは光を電気信号に変換する“フィルム”の役割。センサーサイズが大きくなればなるほど、暗所性能は向上し、被写界深度も浅くできるため、一眼レフのような背景ボケが得られます。

iPhoneでは初期の1/3型センサーから、最新では1/1.28型、さらに将来は1インチ級へと近づいています。しかしセンサーが大型化すると、その分レンズのイメージサークル(投影範囲)も広げなければならず、必然的にレンズが大口径化し厚みを増します。

光学設計で使われる「MTF特性(Modulation Transfer Function)」の観点では、大型センサーに小口径レンズを組み合わせると解像度が落ちるため、メーカーはレンズを厚くするしかないのです。

2. F値と屈折率 ― 明るいレンズは厚い

カメラの明るさを示すF値(例:F1.6)は、レンズの口径と焦点距離の比で決まります。明るいレンズ=F値が小さいレンズを実現するには、大口径で屈折率の高いレンズが必要です。

iPhoneの広角カメラはここ数年でF1.8からF1.6へと明るく進化しました。その裏には非球面レンズや高屈折ガラスを組み合わせた複数枚構成があり、結果として厚さ数ミリ単位のレンズ群が必要になります。筐体の厚み(約7mm)よりもカメラモジュールの方が分厚いため、必然的に背面から突き出す形になるのです。

3. OIS(光学手ぶれ補正)とアクチュエーター

もうひとつの大きな厚み要因がOIS(Optical Image Stabilization)です。iPhoneはレンズシフト式からセンサーシフト式に移行し、センサーそのものを高速に動かす仕組みを採用しました。

このセンサーシフト方式では、センサーを浮かせて動かすための空間とアクチュエーター(電磁石やピエゾ素子)が必要になります。専門誌ではこれを「アクチュエーターストローク制限」と呼び、動作領域を確保するために最低限の厚みを持たざるを得ないと指摘されています。

つまり、OISを搭載する限り「フラット化」とは逆方向の圧力が常に働くのです。

4. iPhoneの歴史 ― 出っ張りはいつから始まった?

初代iPhoneからiPhone 4Sまでは、カメラは本体に収まっていました。しかしiPhone 5(2012年)で7.6mmの薄型化を優先した結果、わずかに突き出すようになりました。

本格的な出っ張りが登場したのはiPhone 6(2014年)です。6.9mmという極薄デザインの代償として、円形のレンズがはっきりと突き出しました。その後、iPhone 7以降で複眼化が進み、iPhone 11では「カメラ島」と呼ばれるスクエア状のユニットが登場。最新モデルでは3眼+LiDARまで搭載し、出っ張りはデザイン上の特徴にすらなっています。

5. Androidスマホの事情 ― 出っ張りは世界共通

「iPhoneだけが出っ張るのでは?」と思うかもしれませんが、答えはノーです。Samsung Galaxy Sシリーズ、Xiaomi、Oppo、Huaweiなど、ハイエンドAndroidも同じ問題を抱えています。

特にGalaxy S20 UltraやXiaomi 12S Ultraは1インチセンサーを搭載し、背面には巨大なカメラユニットがそびえ立ちました。むしろiPhoneはデザイン的にうまく処理している方で、他社は「横一文字のカメラバー」や「大判円形ユニット」で個性を演出しています。

つまり、カメラの出っ張りはAppleだけの事情ではなく、「スマホ業界全体の進化の代償」と言えるのです。

6. デザイン哲学と厚さのトレードオフ

ではなぜAppleは「本体を少し厚くしてフラットに収める」選択をしないのでしょうか。理由はシンプルで、Appleは長年「薄さと軽さ」をブランド価値としてきたからです。

筐体を厚くすればバッテリー容量も増やせるし、放熱も改善できます。しかし「手に持ったときの感覚」「ポケットに入る薄さ」を重視するAppleは、全体の厚さを増やすよりも、局所的に出っ張らせる道を選んだのです。これはiPadやMacBookの設計でも同様の哲学が貫かれています。

7. フラット化に近づける技術的アプローチ

では将来のiPhoneはどうすればフラットに近づけるのでしょうか。いくつかの有力なアプローチが研究されています。

ペリスコープレンズの拡張

光を90度曲げて横方向に配置する「ペリスコープ型」は望遠専用に導入されています。これを広角や標準レンズにも応用できれば、厚みを抑えつつ光学性能を維持できます。

液体レンズ(可変レンズ)

電圧で形を変える液体レンズは、従来の複数枚レンズを不要にできる可能性があります。これにより焦点距離を自在に変えられれば、レンズ枚数を減らしてモジュール全体を薄くできるかもしれません。

積層型・有機CMOSセンサー

従来のシリコンセンサーに比べて薄膜構造を持つ有機CMOSや、配線層を工夫した積層型センサーは「薄くても感度が高い」新世代のセンサーです。これが普及すれば、大型センサーに頼らなくても画質を維持でき、厚み削減に寄与します。

AI補正とソフトウェアの進化

近年のスマホカメラは「コンピュテーショナルフォトグラフィー」が主役です。HDR合成やノイズリダクション、被写界深度シミュレーションによって、物理的に大きなレンズやセンサーを使わなくても高画質を得られる方向に進んでいます。AI補正の進化は、ハードを小型化する余地を広げるでしょう。

8. 出っ張りの未来予測

では「出っ張りゼロのiPhone」は実現するのでしょうか。技術的にはまだ数年先ですが、可能性は十分にあります。液体レンズや有機CMOSが普及すれば、フラットデザインに戻るシナリオも考えられます。

一方で、Appleが「カメラの出っ張り=高性能の象徴」と捉え、あえて残す可能性も否定できません。実際、ユーザーの多くはケースを装着して使うため、デザイン上の影響は限定的だからです。

9. まとめ ― 出っ張りは進化の証

  • 出っ張りの原因は「大型センサー」「大口径レンズ」「OISユニット」
  • 本格的に始まったのはiPhone 6から
  • Androidも同じ課題を抱えており、むしろさらに巨大化する例も
  • 将来的には液体レンズや有機センサー、AI補正で薄型化の可能性あり

iPhoneのカメラ出っ張りは「技術的な必然」であり、「進化の証」です。スマホカメラの歴史を振り返れば、それは常にユーザーの「もっとキレイに撮りたい」という欲望と、メーカーの「もっと薄くしたい」という哲学のせめぎ合いでした。

数年後、私たちが手にするiPhoneはフラットな背面を取り戻すのか、それともさらなる“出っ張りの象徴”を抱えるのか。答えはまだわかりませんが、少なくとも現時点では「カメラの出っ張り=進化の勲章」と言えるでしょう。

ではまた!


参考にした情報

  • 電子情報通信学会誌「スマートフォン用イメージセンサーの進化」
  • 光学技術コンタクト「小型カメラモジュールのMTF解析」
  • 各種メーカー技術資料(Sony、Samsung、Apple)
  • 主要メディア:MacRumors, 9to5Mac, The Verge, Nikkei Technology など