
✅この記事では、SamsungのExynos 2600向けに採用された新しい放熱技術「Heat Pass Block(HPB)」がどんな仕組みなのか、そしてなぜAppleシリコンやSnapdragonにも広がる可能性があるのかを整理します。チップ本体ではなく「パッケージング」で熱を逃がす発想が、これからの薄型スマホやノートPCにどんな意味を持つのかを、一緒に見ていきましょう。
- 要点:SamsungのHPB放熱技術は何が新しいのか
- 仕組み:従来パッケージとHPB構造の違い
- 注目したいポイント:AppleシリコンとSnapdragonにとっての意味
- ひとこと:放熱は地味だけど、未来のiPhoneを左右する
- まとめ:HPBはTSMC時代の新しい「放熱教科書」になるか
どうも、となりです。
最近のハイエンドSoCは、とにかく「性能」と「発熱」の綱引きが激しくなっていますよね。Snapdragon 8 Elite Gen 5はベンチマーク上では非常にパワフルですが、テストによってはボード全体で約19.5Wもの電力を消費し、A19 Proを搭載したiPhone 17 Pro Maxの約12.1Wと比べて負荷時の熱のハンドリングが難しいと指摘されています。
そんな中で注目されているのが、SamsungがExynos 2600向けに導入したというHPB(Heat Pass Block)放熱パッケージです。単純な「冷却パーツの追加」ではなく、チップ周りの部品配置そのものを変えることで、平均30%ほど温度を下げたとされるこの仕組み。ここに、AppleやQualcommが関心を寄せていると報じられているわけです。
要点:SamsungのHPB放熱技術は何が新しいのか
まずは、元記事の内容をベースに要点を整理しておきます。
- 従来のExynosでは、AP(アプリケーションプロセッサ)の真上にDRAMを載せる構造(FO-WLPなど)が主流だった
- Exynos 2600では、APの上に銅ベースの「Heat Pass Block(HPB)」を直接載せ、DRAMは横に逃がす構造に変更
- HPBはAPと直接接触する「ミニ・ヒートシンク」のような役割を果たし、従来世代比で平均約30%の温度低下が見込まれるとされる
- このHPBパッケージ技術を、Samsungは自社スマホだけでなく、外部顧客(Apple・Qualcommなど)にも提供する準備を進めていると報じられている
- 一方で、AppleはA10以降TSMC製造に完全移行、QualcommもSnapdragon 8 Gen 1+以降TSMCを主力にしており、「プロセスはTSMC、パッケージはSamsung」という組み合わせが現実的かどうかが焦点になる
- Snapdragon 8 Elite Gen 5は強力な性能の代償として発熱が課題であり、SamsungのHPBはこの「熱との戦い」に対する一つの解決策になり得る
ここだけ読むと「銅の板を載せただけ?」のようにも見えますが、実際にはロジックチップと周辺部品の位置関係・熱の通り道を根本から組み替える発想になっているのがポイントです。
Samsung Foundry Sets Out to Expand Mobile AP Orders with Heat-Controlling Technology
— Jukan (@jukan05) December 11, 2025
Samsung Electronics Foundry has unveiled a new technology to expand orders for mobile application processors (APs). The core of this initiative is resolving heat generation, which is considered…
仕組み:従来パッケージとHPB構造の違い
もう少しだけ踏み込んで、HPBの構造をイメージしてみます。
従来構造:APの上にDRAMを重ねるスタイル
これまでの多くのモバイルSoCでは、
- 土台:パッケージ基板
- その上:AP(CPU・GPU・NPUなどが載ったチップ)
- さらにその上:DRAM(メモリチップ)
という「三段重ねのサンドイッチ構造」が一般的でした。面積を節約できる反面、APの真上をDRAMでふさいでしまうため、熱が逃げるルートは横方向と裏側(基板方向)に限定されるという弱点があります。ベイパーチャンバーなど筐体側の冷却を頑張っても、「チップから最初に熱をどこへ逃がすか」がボトルネックになりがちでした。
HPB構造:銅ブロックをAP直上に置き、DRAMを側面へ退避
対してExynos 2600のHPB構造では、
- APの真上に銅製のHeat Pass Block(HPB)を直接貼り付ける
- DRAMはAPの上から横(サイド)に移動させ、APの上は熱を通すためだけの“専用レーン”にする
- HPBは、上に載るヒートスプレッダや筐体側の冷却機構(フレーム、ベイパーチャンバーなど)と直接熱をやり取りする中継ポイントになる
という形になります。イメージとしては、今まで「本の山」の下で熱がこもっていたCPUに対して、上に積んでいた本(DRAM)を横にどけて、その代わりに熱を受け取って運ぶための銅の塊を置いたような感じです。
これによって、APからの熱は、
- AP → HPB(銅ブロック) → 上側の冷却機構 → フレーム全体へ拡散
というまっすぐな逃げ道を取りやすくなります。Samsungは、この構造変更により、従来世代のExynosと比べて平均約30%の温度低下を実現できると説明しているようです。
クロックを「抑えめ」にして安定性を取る戦略にもフィット
さらに、報道によれば、Exynos 2600のプライムコアは、Snapdragon 8 Elite Gen 5の高性能コアと比べてクロック周波数の差が約4.6%にとどまるとされています。これは、無理にピーク性能だけを追いかけるのではなく、
- クロックを抑えつつ、
- その代わり効率の良い放熱パッケージで「持続性能」を稼ぐ
という戦略にも噛み合ってきます。チップの設計とパッケージングをセットで最適化することで、「紙のスペック」ではなく実際の長時間負荷での安定した性能を狙うアプローチと言えそうです。
注目したいポイント:AppleシリコンとSnapdragonにとっての意味
では、このHPB放熱技術は、AppleシリコンやSnapdragonにとってどんな意味を持ちうるのでしょうか。個人的に気になったポイントを整理してみます。
1. 超薄型デバイス時代にこそ「パッケージ側の冷却」が重要
iPhone 17 Proシリーズや今後のMacBookを見てもわかるように、Appleは薄さ・軽さと性能の両立をずっと追い続けています。内部スペースがギリギリな中で、バッテリーやカメラ、スピーカーなどの部品と、ロジックボードや冷却機構をどう詰め込むかは、年々シビアになっています。
たとえば、iPhone 17 Pro/Pro Maxの分解レポートを見ると、バッテリーやベイパーチャンバーの配置にかなり工夫が凝らされているのが見えてきます(詳しくはiPhone 17 Pro/Pro Max分解レポートでも整理しました)。
こうした「筐体側の頑張り」に加えて、今回のHPBのようにチップパッケージ側で熱の通り道を最適化する技術が組み合わさると、
- 同じ厚みのまま、もう一段高い持続性能を狙える
- あるいは、性能を維持したまま、さらに薄型化を進められる
という選択肢が出てきます。Appleシリコンも、すでにチップレット化や3D積層などが噂される中で、「パッケージング由来の冷却メリット」を取り込む価値は十分あるはずです。
2. TSMCプロセス × Samsungパッケージという組み合わせは現実的か
とはいえ、ここで一番現実味の議論になるのが、
「TSMCで作ったAppleシリコンを、SamsungのHPBパッケージでくるむ」
という組み合わせが本当にあり得るのか、という点です。
AppleはA10以降、iPhone向けチップの量産をTSMCに一本化し、Mシリーズも含めて「TSMC+Appleパッケージング技術」のコンビで進んできました。一方で、今回のHPBはあくまでSamsung側で開発されたパッケージ技術であり、
- Samsung Foundryが「パッケージだけ」のサービスとして提供するのか
- あるいは、「HPBのコンセプトや設計思想だけを他社にも開放する」のか
といった部分は、まだ具体的な情報が出ていません。
個人的には、Appleが丸ごとSamsungにパッケージを任せる、というよりは、
- HPB型の「AP直上に熱ブロックを置き、周辺部品を逃がす」構造そのものが、
- 将来的にTSMCやOSAT(パッケージ専業)でも採用される
という形で波及していく可能性のほうが高いのではないかと見ています。つまり、今回のExynos 2600は「パッケージングによる放熱最適化」というトレンドの先行事例として意味がある、というイメージです。
3. Snapdragon側にとっては、より切実なテーマに
一方で、Qualcommにとっては、このHPB構造はかなり切実なテーマに映っているはずです。Snapdragon 8 Elite Gen 5は、性能面では非常に野心的な設計で、前世代比でCPU・GPUともに二桁パーセントの伸びを狙う一方、そのぶん発熱と消費電力が重くのしかかっているのが現状です。
このあたりは、以前まとめたOnePlus 15のSnapdragon 8 Elite Gen 5分析でも触れましたが、Android側は「ピーク性能」を攻めるほど、筐体と冷却設計に求められるハードルが一気に上がってしまいます。
HPBのように、パッケージレベルでチップから筐体への熱の橋渡しを効率化できるのであれば、Snapdragon陣営としてはぜひ使いたい技術でしょう。実際にどの世代から、どの端末で採用されるのかはまだ見えていませんが、「発熱に悩むチップほど、パッケージで救われる余地が大きい」という構図があるのは間違いありません。
4. Appleの視点:熱設計はカメラやAIとも直結する
Appleシリコン側の話に戻ると、最近のAシリーズ/Mシリーズは、単純なCPUスコア以上に、
- 高負荷撮影(ProRes、長時間ポートレート動画など)
- オンデバイスAI処理(Apple Intelligence、生成系機能)
- 長時間ゲームプレイ
といったワークロードでの「持続性能」と「表面温度」が重要な評価軸になりつつあります。
たとえば、A19 Proのような高性能チップを搭載したiPhone 17 Pro Maxでも、筐体の冷却設計や内部レイアウトによって、実際に出せる性能や時間は変わってきます。この点で、
- チップ側:クロックやコア構成、電力制御
- パッケージ側:HPBのような熱の通り道の最適化
- 筐体側:ベイパーチャンバーやフレーム、内部構造
という3層をセットで考える動きは、今後のAppleシリコンでも避けて通れないテーマです。今回のSamsung HPBは、そのうちの「パッケージ層」をどう工夫するかの実例として、Appleにとっても無視できない存在になっていきそうです。
ひとこと:放熱は地味だけど、未来のiPhoneを左右する
正直なところ、「銅ブロックを載せてDRAMを横に動かしました」と聞いただけだと、少し地味に感じるかもしれません。でも、スマホやノートPCの中身を追いかけていると、こうしたほんの数ミリ単位の配置変更が、
- ベンチマークのスコアではなく、
- 「実際にどれだけ長くサクサク動いてくれるか」
に直結してくるのを何度も見てきました。
Appleが今後も薄型デザインとAI処理を両立させていくなら、チップそのものの性能だけでなく、今回のHPBのようなパッケージ起点の熱設計も、いずれどこかで取り入れてくるはずだと感じています。Exynos 2600は、その方向性を一足早く形にした“前振り”のような存在、と捉えると面白いのではないでしょうか。
まとめ:HPBはTSMC時代の新しい「放熱教科書」になるか
今回のSamsung HPBとExynos 2600の話をまとめると、次のようなポイントに整理できそうです。
- Exynos 2600では、APの上にDRAMを重ねる従来構造をやめて、AP直上に銅製HPBを置き、DRAMを横に逃がすという大胆なパッケージ変更を行った
- この結果、従来世代のExynosと比べて平均約30%の温度低下が見込まれ、クロックを控えめにしながら持続性能を確保する戦略と相性が良い
- SamsungはこのHPBパッケージ技術を外部顧客(Apple・Qualcommなど)にも開放する方針とされており、「プロセスはTSMC、パッケージはHPB的構造」という組み合わせが今後のトレンドになり得る
- Snapdragon 8 Elite Gen 5のように発熱が課題のチップにとっては、パッケージ起点で熱経路を改善することのメリットが大きく、Android陣営ではより直接的なニーズがありそう
- Appleシリコン側も、すでにA19 ProとExynos 2600を比較したExynos 2600とA19 Proの実力比較などで見てきた通り、「効率」と「持続性能」を重視する路線を続けており、いずれはパッケージレベルの放熱工夫も取り込んでいくと考えるのが自然です
チップ製造の主役はTSMCである状況はしばらく変わらなそうですが、その周辺で「誰がどんなパッケージ技術を提供するか」という競争は、これからさらに激しくなっていくはずです。今回のHPBは、その序章としてかなり象徴的な一手に見えます。
あなたは、こうしたパッケージ起点の放熱技術が、今後のiPhoneやMacにどこまで入り込んでくると思いますか? 「チップの中身」だけでなく、「チップの包み方」にも注目しながらニュースを追っていくと、また違った景色が見えてくるかもしれません。
ではまた!
Source: Wccftech, ET News
